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長時間測定について分析スタッフの見解
測定所に持ち込まれる検体は、汚染度の高いものから低いものまで様々です。AT(測定所で使用している放射能測定器ATOMTEX)でどの程度の時間測定すれば良いか?ちょっと難しい課題について考えてみました。

放射能濃度は、一定時間内に検体から出てくるγ線の数を数えて求めます。しかし、放射性崩壊は確率的な現象なので、計測時間が短すぎると崩壊現象そのものが起きないかもしれません。何回か崩壊を観測できるように、ある程度計測時間を長く取る必要があります。このようにして求めた放射能濃度は、「平均的」な状態量です。つまり放射能濃度は、本質的に誤差から逃れることができません。

放射線を利用した放射能濃度の測定は、「体育館に集めた小学生児童、例えば1,000人中の、花粉症患者の割合を求める」作業に似ています。花粉症患者かどうかは、医者に診断してもらうのではなく、「くしゃみ」をした児童を花粉症と判断することにします(この「くしゃみ」がγ線、花粉症児童が放射性核種)。

体育館の外は交通量の多い主要道に面しています。これではうるさくて「くしゃみ」の音の聞き取りが困難で、計数ミスが多発しそうです。このミスを減らすためには、体育館の壁を防音・厚くして、外部の雑音をできるだけ小さくしないといけません(これが遮蔽強化に当たります)。

しかし実際には、防音による外部雑音の低減には限界があり、完全に消音することはできません。なので、消せない雑音の分で、「くしゃみ」として聞こえる数を見積もっておいて、実測後に差し引くことで対応します(これがoperational BG*の意味)。

このようにして「くしゃみ」の数をかぞえるわけですが、計測時間があまりにも短いとうまくいきません。例えば測定時間が1秒しかないと、1,000人もいるとはいえ、全く「くしゃみ」が出ない可能性もあります。花粉症患者はゼロなんでしょうか?このことから、数える時間については、長い方が精度が良くなることが直感的にわかると思います。

では、測定時間は長ければ長いほど良いのでしょうか?そう単純ではありません。測定時間を長くすると、別な問題が起きてきます。
なかでも大きな問題となるのは、「測定環境のゆらぎの影響」です。

体育館「くしゃみ」測定では、あらかじめ外部の雑音の影響を見積もって、後で差し引くという操作をしました。しかし外部の雑音は常に一定ではありません。夜中は静かでしょうが、日中は交通量が増えてうるさくなります。日によっては、道路工事が始まるかもしれません。「くしゃみ」の測定時間を長くし過ぎると、この外部騒音のゆらぎの影響をまともに受けてしまいます。

放射能測定では、この外部騒音がBG(Background=環境放射線)に当たります。大学などの研究室レベルでの実測では、このBG揺らぎに細心の注意を払います。測定中、環境放射線量を常時チェックし、それが増えても減っても測定は中止です。BGの揺らぎは測定の精度を低下させるからです。測定時間を長くすれば長くするほど、このBG揺らぎを受ける可能性が高くなります。

更に、ATはこの揺らぎの影響を強く受ける性質を持っています。ATはセシウムに特化した食品専用としての位置づけのためか、あらかじめ定めたエネルギー領域の計数を足すだけで、核種毎のピーク同定はしません。このため、ピークずれの影響を修正することができません。測定時間が長くなればなるほど、ピークズレの可能性が高まります。

また、ATでの放射能測定では、実測時のBGとoperational BGが等しい、という前提のもとで放射能濃度の計算が行われます。しかし、実際にはBGはかなり大きく揺らいでいます(日常のcps数値の振れを見ればお分かりでしょう)。ATはこの揺らぎを考慮することができません。operational BG取得時の環境放射線量と実測時のそれが違っていた場合、測定時間を長くすれば長くするほど、誤差が累積されてしまいます。こうして出された値は意味のない数字です。

繰り返しになりますが、放射性崩壊は確率的な現象です。測定精度を上げるためには、測定時間を長くしなければなりません。しかし、そのためには、いくつかの前提条件が必要です。それは、

①雑音が少ないこと
②測定時のBG揺らぎがないこと
③ピークズレが起きないこと
④operational BGと計測時のBGが同じであること

です。
ATの定量アルゴリズムでは、測定時間が長くなると誤差が減少していきます。これは、ポアソン分布とその誤差の関係という統計的性質に基づいています(※文末に理論式。興味のある方はどうぞ)。

しかし、これは測定時間以外の諸条件が完璧に満たされて初めて実現する性質であることを心に留めておくべきです。

精度の高い測定のために、現実的に最も効果的なのは①で、そのためには遮蔽強化が効きます。次に気をつけるべきなのは②です。例えば人間は、体の中に放射性カリウムを大量に持っていますから、測定器の周辺をウロウロすると、それだけでBGが揺らぎます。理想的には地下に厚い遮蔽板でおおった放射能暗室を作って、その中に測定器を置きたいところです(実際、リニアコライダー等ではこうしてる)。逆に、そうでない環境下では、単純に測定時間だけを伸ばしても、その時間に見合うだけの効果は得られないでしょう。

更に検体の状態にも気をつけなければなりません。ATOMTEXのうたうカタログ上の測定下限3Bq/Kgは、検体が水道水の場合です。水道水ですから、形状・密度・一様性全てが理想的な状態です。下限値3Bq/Kgはこの状態で実現されるものです。

測定所はATの出す数字を尊重する立場を取っています。しかし、それはATの出す数字を盲信することではありません。測定時間を伸ばせば、表記上の下限値は下がっていきますが、その信頼性のチェックは絶対に必要です。①~④の条件は十分に整っているのか?検体の状態は理想的か?カタログ上の検出下限値は重要な意味を持っています。測定の努力によって、カタログ上の検出下限値にできる限り近づけることが科学的に妥当な行為と言えるでしょう。

このように書いていくと、まるでATは測定に足る性能を持ってないように思うかもしれませんが、そうではありません。
放射能測定器には、その測定形式によって長所短所があります。ATは後述する「スクリーニング器」としては、かなり高性能です。

シンチレータ式(AT)は、高性能測定器の代表格であるGe半導体測定器に比較して、分解能は大きく劣りますが、感度やハンドリングは優れています。
その最大の長所は、比較的短時間で、手軽に測定を行うことができるという機動性です。
ATはスクリーニング器として位置づけされています。多様な食品を、短時間で手軽に測定し、検体を怪しいものとそうでないものに振り分けます(スクリーニング)。汚染度が非常に低く、怪しいものは、高い分解能を持つGeに回す、これがATの本来の使い方です。

測定所では以上のATの特徴を踏まえ、その特性を生かした測定を行っていきます。

分析スタッフ 山下



ポアソン分布の統計的性質から、検出に必要な時間を求めることができます。

検体の放射線量をa(cps)
BGの放射線量をb(cps)
とすると、検出に必要な測定時間tとの関係は、

(a+b)*t-b*t >=k*(2b+a)^0.5

となります。これをtについて解くと、

t=k^2*(1+2b/a)/a

です。ここでkは検出と不検出を分けるしきい値で、通常は3(標準偏差)が使われます。
(実際には、効率と系統誤差(統計的性質以外の要因による誤差)がわからないと正確な計算はできませんが、)この式よりBGの放射線量bが小さく、また検体の放射線量aが大きいほど測定時間tが小さくなる関係にあることがわかるでしょう。
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『分析スタッフ』 | 21:52:33 | コメント(0)
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